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文化財返還 [総論]

「第二に、絵画・建築・彫刻などの芸術作品は、まさにそれ自体に価値があるため、その発見状況とは関係なしに大切にされる。実際に私たちは、明るい気候の土地の神殿からフリーズを剥ぎとり、陰気なロンドンの室内で目の高さにそれをおいて美しさを鑑賞しているのだ!」
V.G.チャイルド1956(近藤義郎訳1981)『考古学の方法<改訂新訳>』:15.

今から50年以上も前に、チャイルドはパルテノン神殿の大理石彫刻群「エルギン・マーブル」を巡る略奪性について指摘していた。歯切れは悪く、曖昧ではあるものの。

朝鮮半島から海外に流出した文化財は、世界20ヶ国に7万4434点に及ぶという(伊藤孝司2008「韓国・北朝鮮からの文化財返還要求をどのように受け止めるか」『世界』2月号:194-203.)。独立行政法人国立文化財機構が所管する東京・京都・奈良・九州の四博物館が所蔵する朝鮮文化財は、4276点である(同:195.)

「日本が朝鮮半島北部から、組織的かつ大規模に持ち出した文化財がある。朝鮮総督府と「東京帝国大学」が平壌近郊の楽浪古墳群などから発掘した膨大な量の副葬品だ。漢時代の文化の精華として高く評価されているこれらの遺物は、「東京大学考古学研究室」などが保管。他の北部からの国有文化財としては、先に触れた「国立博物館」所蔵の585点や、「東京芸術大学」の重要文化財・金錯狩猟文銅筒などがある。」(同:196.)

「人類共通の文化遺産は、世界各地に分散して保管・陳列すべき」とか「文化財の価値に応じた展示施設・環境が整備された場所で保管すべき」とか「政治的圧力を背景とした取得と正当な購入・譲渡が区別できない」といった言い訳は、まず所蔵機関が主体的に正確な所蔵リストを作成し極力入手状況を精査した上で相手側と交渉の場につくべきであり、そうした作業以前に所蔵側が口にすべき事柄ではない。

同じような構図は、中央の大学考古学研究室がかつて国内各地において発掘し現在に至るまで保管し続けている様々な考古資料を地元に返還するよう求められている事案についても、そのまま当てはまる。

「文化財をすべて取り戻すことは難しいので、記録だけでも残しておきたいと私は願っています。個人所蔵を含め、日本のどこにどのような文化財があるのかを把握し、それが元はどこにあったのかといった履歴をまとめる必要があります。」(韓国「国立中央博物館」崔善柱・学芸研究官、同:202.)

こうした「日本考古学」が抱える「負の遺産」に関する償還作業を促進するには、個別の所蔵機関における努力もさることながら国レベルでの取り組みが欠かせない。そのためにも「日本考古学」の総意としての意志表示が求められる。全国的な考古学研究者によって構成されているという日本を代表する学会組織がなすべき活動は、重要<遺跡>を破壊から守るために関係当局に要望書を提出することや「陵墓の公開」を求めて宮内庁と交渉することだけに留まるはずもない。


タグ:文化財返還
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廣田吉三郎

遺跡は記録保存する事を前提として<発掘行為>によって破壊される。記録を残さぬ発掘というものがあるとすれば、それはただの遺跡破壊であって許しがたい犯罪といわざるを得ないし、報告書は破壊の代償として将来に残すべき<アーカイブ>なのであって、報告書を出さずに放置している自治体があるならば、それは正に行政による遺跡破壊以外の何ものでもない。実際かなりの自治体でこのような事態になっていると聞く。
この際(例えば調査終了後3年以上経過した)未公刊報告書を徹底的に調査し、結果を公開してはどうだろうか。本来所管の文化庁が把握し指導すべき事項と思うけれど「通達は出した」で動こうとはしない。県も「指導している」と言うだけの事。地方公務員主体の協会は、仲間のあら探しになるので知らぬ振り。
これでは日本の文化財行政を本来あるべき姿に戻すためにも、将来のためにも、”良識ある”第3者機関(公務員を除く国民)に監査してもらうしかないように思います。
せめて記録だけでも完璧に保存してほしいという思いは私だけだろうか?
by 廣田吉三郎 (2008-03-01 00:59) 

五十嵐彰(伊皿木蟻化)

「しかし理由が何であれ、報告書の意図的な未公刊は一種の窃盗と言える。事実、他人の金を用いていながら、他にない情報を隠して見せないのだから、二重の窃盗である。一部の考古学者は、出土遺物を自分の科学的財産と見なし、他の研究者がその資料を研究したり、その遺跡に関係する研究を出版するのを意図的に邪魔しながら、遺物を退蔵することで重罪を犯している。 (中略) それではどうしたらよいのか。それぞれの国で報告が長く遅れている遺跡のリストを、発掘者たちの名前と一緒に公表すべきことが提唱されてきた。イギリスではイングリッシュ・ヘリテッジ財団がその考古学予算のかなりの割合を、最近の発掘だけでなく古い時代に行なわれた発掘の分析と出版に費やしてきた。しかしながら、将来の発掘行為の改善も考慮しなければならない。アメリカの「プロフェッショナル考古学者協会」やイギリスの「フィールド考古学者協会」は現在、会員資格の継続を希望する者には、特に発掘報告を一定期間内に公刊するという協会行動規定に従うことを求めている。」(レンフルー&バーン2007『考古学』:577.)

同じ「協会」という名の組織でも、日本の「協会」と英米の「協会」とでは、「不良債権問題」に対する取り組み方・意識が大分違うようです。
by 五十嵐彰(伊皿木蟻化) (2008-03-01 10:10) 

miharutushin

文化財の返還と言えば、現在大英博物館に所蔵されている大スフィンクスのあご髭について、エジプト政府が英国に対して正式に返還要求を出していると聞く。英国は、正規の手続きによって取得したとして、拒否しているらしい。エジプト政府としては、首周りが砂嵐で削られて危険な状態のスフィンクス頭部を支えるのにオリジナルの髭を使って保存修復したいと考えているが、残念ながら今のところ無理のようだ。またパリのコンコルド広場のオベリスクはルクソール神殿第1塔門前に建てられた向かって右側のもので、当時のエジプト太守によってフランスに寄贈されたものである。今さらオリジナルを返せとは言えないのだろうが、オリジナルが本来あるべきところにある方が望ましいと私は思う。駄目ならば、せめて精巧なレプリカでも作って寄贈するような度量はないのだろうか。
by miharutushin (2008-03-04 23:34) 

五十嵐彰(伊皿木蟻化)

「問題は複雑である。大英博物館は、その理事会が管理を任されている物を処分することはイギリスの法律によって明確に禁じられているのを主な理由に、美術品の返還要求を拒んでいる。しかし解決の道がないわけではない。たとえば、有名なギザのスフィンクスの顎鬚の破片は、相互貸借の形で、ロンドンに頭部がある石造ジャッカルの胴体部と交換に、大英博物館からエジプトの博物館へ戻される可能性がある。さらに現代の素材や技術を用いれば、事実上完全な模型やレプリカを造ることが可能である。そういうわけで問題は、返還要求をする国にオリジナルを譲るべきか、それともコピーを譲るべきかということになる。」(レンフルー&バーン2007『考古学』:552.)
具体的な対処法、あるいは発生する問題は、それこそ様々で、「複雑」だと思います。しかし「日本考古学」にとって特に大切な点は、私たちの先人が行なった行為の結果として今現在の私たちに引き継がれ残されているこうした「負の遺産」に対して、自らの問題としてどれだけ真摯に向き合えるか、という点だと思います。
by 五十嵐彰(伊皿木蟻化) (2008-03-05 08:30) 

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