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1個の石器とは [石器研究]

「1個の石器は1個の石器であり、1個の貨幣は1個の貨幣であるということには何の問題もない。」(オルトン,C.(小沢・及川訳)1987『数理考古学入門』雄山閣:171.)
という文章を引用して、「本当に石器と貨幣を同列に論じることができるのか」という考古資料の個体数算定に関する疑問を提出し、石器の最小個体数(MNI)と階層的石器体系について発表したのは、今から10年前のことになる(五十嵐2002「石器資料の基礎的認識と最小個体数(MNI)」『日本考古学協会第68回総会 研究発表要旨』:29-32.)。

ところが10年が経過しても、事態は一向に改善の兆しを見せない。

例えば、

東京都府中市武蔵台遺跡(多摩総合医療センター地区)A地区第1文化層の「石斧」は、3点出土しているとされている(東京都埋蔵文化財センター2010『武蔵国分寺跡関連遺跡・武蔵台遺跡』東京都埋蔵文化財センター調査報告第239集 第1分冊)。
しかし、何度確認しても2点しかない(同 第3分冊 第1図-1および第3図-1・2)。

東京都調布市飛田給北遺跡第9地点の「角錐状石器」は、11点出土しているとされている(東京都埋蔵文化財センター2011『飛田給北遺跡第9地点』東京都埋蔵文化財センター調査報告第250集)。
しかし、何度確認しても10点しかない。

何故、このような事態が生じているのか?

それは、何れも真ん中から折損している石器を「2点」と数えているからである(『武蔵国分寺跡関連遺跡・武蔵台遺跡』第3分冊第3図1・2および『飛田給北遺跡第9地点』第29図(1-60,1-1167))。

1個の石器は、たとえ折れて2つになろうと3つになろうと、それはやはり「1個の石器」なのではないか?
もちろん1個の石器が2つに折れて、それぞれを改めて作り直して別個の石器とするような事例も想定不可能ではないが、そうした事象は極めて例外的であり、単に1個の石器が折損面で折れている(接合している)ような場合とは明確に区別するべきである。

これは剥片や石核という石器資料の基本的な単位である「石器単位」(1類接合構成資料)と「石器単位」が折損して生じる「石器要素」(2類接合構成資料)という石器研究の基本的な区別が疎かにされていることに起因している。
(石器単位と石器要素については、五十嵐2002「旧石器資料関係論」『東京都埋蔵文化財センター研究論集』第19号を参照のこと。)

仮に、ある石器(打製石斧でも角錐状石器でも)を台の上に置いて、上からハンマーで叩いて10個の破片に砕け散ったら、それは10個の石器になるのだろうか?
あるいは、ある縄紋土器の破片が20個あり、それぞれが接合して1個の深鉢形土器に復元されたとしよう。その時、それを20個の深鉢形土器とカウントする考古学者はいないだろう。

土器資料では決してなされないような資料操作が、何故石器では平然となされており、更にはそのことが一向に問題とならないのか?

学問の研究対象として、どのような単位を基礎的な計数基準としているか、すなわち「何を一個とみなしているのか?」という問題は、学問としての基礎中の基礎、最初に解決しておくべきことである。
残念なことに、こうした基本的な問題提起がないがしろにされているのが、現在の「日本考古学」である。


タグ:個体数算定
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アマチュア

「何れも真ん中から折損している石器を「2点」と数えているからである」
驚きました。また心当たりもありました。たしかに、十数年前に参加した発掘調査で「欠損した細石刃」も細石刃としてカウントしていたことがありました。一遺跡から出土した石器の数量としては不正確さは否めません。出土量を集計して研究している人や、石材別に集計をして研究している人にとってはいささか迷惑なことをしてしまいました。いまさらながら謝りたい気持ちでいっぱいです。
by アマチュア (2017-01-16 22:12) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

アマチュアさんだけでなく、私の周りのプロなる人たちも殆ど全ての人がそうした「心当たり」があるようです。私は基本的には全ての石器数が関わる研究について再検討が必要だと考えています。そのことについてある人は、「たいした違いはないだろう」と言います。確かに大きくは違わないかも知れません。しかし重要なのは、大きく違うか違わないかではなく「何を1個の石器とするのか」という私たちの考古資料に対する認識なのです。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2017-01-17 08:28) 

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