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第8回 世界考古学会議(WAC-8 KYOTO)8.28-9.2 [研究集会]

開発・政治・ポスト植民地主義・倫理・比較・地域・教育・公共・理論・科学・宗教・相互交流・災害・芸術・戦争という15テーマに159のセッションが設定されて、そこに1477本の口頭発表が配置される。これらが29会場で4日間同時進行で発表される。そのほか132枚のポスター発表、7つのエクスカーション、記念集会、記念講演、総会、サテライト会場での展示など盛り沢山である。

設定された15種類のテーマの一つ「テーマ3:ポスト植民地経験、考古学の実践、そして先住民考古学」では、15のセッションが設定されて総計89本の発表が予定されている。
15セッションの内、セッション題に”Repatriation”(返還)の用語が採用されているのは8セッション、キーワードにあるのが1セッションである。
89本の発表の内、発表題ないしはキーワードに”Repatriation”(返還)の用語があるのは、以下の44本である。自らの発表分を除外すれば、43本。
4日間フルに聞いても、1日10本以上の発表を聞くことになる。
「返還」という単一テーマに絞ってもである。

1.T03C09 Archaeology and Repatriation Issues in the Post-Colonial Era
in Japan (Akira Igarashi)
 ポストコロニアルな時代の日本考古学と返還問題
2.T03D03 The Research, Protection and Repatriation of Sacred Remains
of Native People in Archaeological Research: Brazilian Strategies and Case
Studies (Erika Robrahn-Gonzalez)
 
 考古学調査における先住民の聖なる遺物の調査、保護、返還:ブラジルの戦略と事例研究

3.T03D04 A Traditional Owners Perspective on Research and Repatriation
(Thomas Wales)
 
 調査と返還における伝統的所有者の観点

4.T03E03 Wartime Collections: Returning a World War II German Symbol
of Anthropology Science (Dru McGill & Jennifer St.Germain)
 
 戦時期の収集品:人類科学における第二次世界大戦期ドイツのシンボルの返還

5.T03E04 Sami people and Finnish Archaeology (Eeva-Kristiina Harlin) 
 サミの人々とフィンランド考古学

6.T03E05 The right to cultural heritage: a Sami point of view (Brigitta
Fossum)
 
 文化遺産への権利:サミの観点

7.T03E09 Early modern collecting of Sami material culture and Sami cultural
heritage today (Carl-Gosta Ojala)
 
 サミ物質文化の初期近代収集とサミ文化遺産の今日

8.T03H01 The collecting and exhibition of Indigenous Ancestral Human Remains
(Paul Turnbull)
 
 先住祖先の人類遺物の収集と展示

9.T03H02 Repatriation Knowledge in the Networked Archive of the
Twenty-First Century (Gavan McCarthy & Ailie Smith)
 
 21世紀ネットワーク状アーカイブの返還知
10.T03H04 Reclaiming Mana. The Ivi Tupuna Rapa Nui Digital Database Project
(Jacinta Arthur)
 
 マナの返還、イビ・トゥプナ・ラパ・ヌイのデジタル・データベース・プロジェクト

11.T03H05 An artistic detective in the museum achive: creative response to repatriation
and its historical context (Julie Gouogh)
 
 博物館アーカイブにおける美術的な探査:返還に対する創造的反応と歴史的な脈絡

12.T03I01 Repatriation and the Trauma of History (Russell Thornton) 
 返還と歴史のトラウマ

13.T03I02 Memorials and the global age of repatriation
(Gareth Knapman)
 
 記憶とグローバル時代の返還

14.T03I03 Repatriation, Healing and Wellbeing (Cressida Fforde) 
 返還、癒し、幸福

15.T03I05 Repatriation and Wellbeing: the Ngarrindjeri experience
(Steve Hemming etal.)
 
 返還と幸福:ンガリンジェの経験

16.T03I06 The Majimaji War Mass Graves and the Challenges of Repatriation,
Identity and Remedy (Nancy Rushohora)
 
 マジマジ戦争の大量埋葬地と返還・アイデンティティ・治療の挑戦

17.T03J01 The acquisition and use of indigenous remains in France (Simon
Jean)
 
 フランスにおける先住遺物の獲得と使用

18.T03J03 The Remains of Exchange: Scientific networks and
the trading of human remains (Gareth Knapman & Cressida Fforde)
 
 交換の遺物:科学的ネットワークと人類遺物の交易

19.T03J04 The Andreas Reischek collection in Vienna and New Zealand’s
attempts at repatriation (Coralie O’Hara)
 
 ウィーンにおけるアンドレアス・リーシック・コレクションと返還へのニュージーランドの試み

20.T03J05 Private Auction Houses and Sales of Indigenous Ancestral &
Cultural Items (Honor Keeler)
 
 私的な競売施設と先住祖先・文化遺品の商い

21.T03J07 Russia and the Pacific: Expeditions, networks and the acquisition
of ancestral remains (Elena Govor & Hilary Howes)
 
 ロシアと太平洋:探検、ネットワーク、祖先遺物の獲得

22.T03J09 They Knew No better? The Morality and Legality of
Collecting Indigenous Human Remains in the Long Nineteenth Century (Paul
Turnbull)
 
 彼らはより良いものを知っていたのか? 長期にわたる
19世紀の先住人類遺品収集の道徳性と合法性
23.T03K01 Jim Crow Returns: Reburial and History-Making in the Hunter Valley
(Alexandra Roginski)
 
 ジム・クロウの帰還:ハンター渓谷における再埋葬と歴史の創出

24.T03K03 Theorising Race and Evolution –German Anthropology’s Dealings with
Australian Aboriginal Skeletal Remains in the Long Nineteenth Century (Antje
Kuhnast)
 
 人種と進化の理論化、長い
19世紀におけるオーストラリア・アボリジナル骨格遺体に対するドイツ人類学の実践
25.T03K04 Contextualising repatriation as community development and
nation building (Daryle Rigney, etal.)
 
 経済発展と国家創設として返還を脈絡づける

26.T03K31 The face of genocide: Returning human remains from German
institutions to Namibia (Larissa Forster)
 
 虐殺の側面:ドイツ研究所からナミビアへの人類遺品の返還

27.T03L01 Repatriation and
Loss: What loss? Whose property? Which freedom? (April Sievert)
 
 返還と喪失:何を失うのか?誰のもの?どっちの自由?

28.T03L02 The application of science to establishing provenance of Aboriginal
remains in Cape York, Australia (Michael Westaway, et al.)
 
 オーストラリア、ケープ・ヨークでのアボリジナル遺物の由来確立に向けての科学の応用

29.T03L04 Things I never thought I’d say; Indigenous Efforts to Decolonize
the National Museum of Natural History (Dorothy Lippert)
 
 決して考えなかった物について述べる、自然史科学博物館を脱植民地化する先住民たちの努力

30.T03M01 Repatriation in the Kimberley: conceptual approach and
contextual history (Lyndon Ormond-Parker & Neil Carter)
 
 キンバリーにおける返還:概念的なアプローチと脈絡的な歴史

31.T03M02 An National Australian Keeping Place for Unprovenanced Ancestral
Remains (Lyndon Ormond-Parker, et al.)
 
 由来不明な祖先遺物のための国立オーストラリア保管地

32.T03M03 The death of Kaakutja (William Bates & Barbara Johnson) 
 カクジャの死

33.T03M04 Ngarrindjeri repatriation: a history (Daryle Rigney, etal.) 
 ンガリンジェの返還:その歴史

34.T03M05 Repatriation in the Torres Strait: history, aspirations and
developing processes (Ned David)
 
 トレス海峡における返還:歴史、願望そして発展過程

35.T03N01 Indigenous Repatriation: Rise of a Global Movement (Timothy
McKeown)
 
 先住民への返還:グローバルな動向の勃興
36.T03N02 Germany’s engagement with the repatriation issue (Hilary
Howes)
 
 返還問題に対するドイツの関わり方
37.T03N04 Ka Haka Hoki Mai Te Mana Tupuna, the Rapa Nui Repatriation
Program (Jacinta Arthur)
 
 カ・ハカ・ホキ・マイ・テ・マナ・トゥプナ、ラパ・ヌイ返還プログラム

38.T03N05 Contexts of Injustice and Shifting the Burden: Experts of Our Own
Cultures (Honor Keeler)
 
 不正義の脈絡と重荷の移動:私たち自らの文化の輸出

39.T03N06 Welcome home? Thoughts on repatriation and human remains
ethics from a non-descendant community (Llenel De Castro)
 
 故郷へようこそ? 非子孫コミュニティからの返還と人類遺品倫理の考察

40.T03N07 When the living forget the dead: the cross-cultural complexity of
implementing the return of museum held ancestral remains (Paora Tapsell)
 
 生者が死を忘却する時:博物館が所蔵する祖先遺物の返却が意味する交差文化複合

41.T03O01 The Return of Torres Strait Ancestral Remains to TSI
Traditional Owners by the Natural History Museum London (Margaret Clegg &
Ned David)
 
 トレス海峡祖先遺品の返却、ロンドン自然史博物館によるTSI伝統所有者へ

42.T03O02 Creating New Partnerships Under NAGPRA: Collaboration and Repatriation
in the Alaskan Arctic (Jayne-Leigh Thomas & Flossie Mongoyak)
 
 NAGPRA
施工下における新たなパートナーシップ(共同事業)の創出:アラスカ・太平洋岸における協力と返還
43.T03O05 The Repatriation from Manchester Museum: reflections from
the museum and community perspective, a decade on (Major Sumner & Tristram
Bestman)
 
 マンチェスター博物館からの返還:博物館からの自省と共同体的視点、
10年後
44.T03O06 Repatriation Consultation: The First Step in Establishing
Tribal History Partnerships (April Sievert, et al.)
 
 返還協議:部族史構築の第一歩としてのパートナーシップ(共同事業)

発表が15分、議論が5分というのが平均的な時間配分である。
しかし実際は議論が終わらずに延々と続くというケースがしばしばである。
発表は議論を引き出すきっかけに過ぎず、中心は研究者同士の丁々発止、筋書きもシナリオもない、発表に対して自分の考えやアイデアをぶつけて、発表者の意見を聞く、それに対して別の参加者が違う意見をぶつける、そうやって徐々に合意が形成されていく。
あらかじめコメントをする人に依頼しておいて、当たり障りのない意見が述べられて、はい時間がなくなりましたのでこのあたりで、という通常の「日本考古学」の研究集会が途方もなく淀んでいるように思えてくる。
これこそが、学問研究の本来のあり方ではないのか。
ただし全て英語なので、半分ぐらいしか理解できないのが残念である。
まぁ、短期の仮想留学みたいな経験である。

それでもいくつかなされた発表や議論を通じて、多くのことを学ぶことができた。
その一つは、今まで「文化財返還」というのは先住民考古学と植民地考古学という2つの領域で構成されている、そしてこの2つのうち海外では先住民考古学における返還問題が先行して研究が進められているというように考えていた。確かに両者の研究すべき対象は異なるし、先住民に対する返還が先行していることも今回の発表リストを通覧してよく分かる。
しかし実は異なる点よりも、共通する点をこそ強調していくことこそが求められていると思う。
オーストラリアのアボリジニやアメリカのインディアンや北海道のアイヌの人々に対する遺骨返還も、アメリカ兵の遺族が返還する「武運長久」といった寄せ書きのある「日の丸」も、東京国立博物館にある小倉コレクションも、東京大学にある楽浪古墳出土遺物も、全て同じ性格を有しているのではないか。

先住民に対する抑圧的な政策や虐殺事件、従軍慰安婦など植民地支配の歴史に対する反省を単に言葉で表明するだけではなく、不当な非倫理的な形で入手した遺骨や遺物を元の持ち主・共同体に返還するという具体的な行動で表す必要があるのではないだろうか。
不幸な歴史を反省する言葉を、具体的な行動で形にする。単に言葉だけで終わることなく。
そのことに、考古学者は大きな役割と責任を負っている。
特にいち早く近代化をなし遂げて、世界の列強、強国として植民地を形成した先進国で考古学という学問に関係している人々は。
「返還考古学」という新たな領域が成立する根拠である。 


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