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田中2019『開発と考古学』 [全方位書評]

田中 義昭 2019 『開発と考古学 -市ヶ尾横穴群・三殿台遺跡・稲荷前古墳群の時代-』新泉社

「私は1935年10月30日にこの世に生を受けた。いまは80歳の大台を超え、後期高齢者晩期の真最中にある。「おいくつですか」と聞かれるのがはなはだ鬱陶しいが、ここまで生きてこられた幸運への感謝の気持ちも日増しに強くなっている。この人生が跡形もなく消え失せるのは何とも残念無念に思われて仕方がない。
私の愚にも付かないような足取り、傍から見ればそこらに転がっている一市井人の人生に過ぎないだろう。だが、わが身にとっては掛け替えのない命の歴史である。兼ねてから、印象深い過ぎし日の生き様をきちんと書き残しておきたいと念願していた。ようやく喜寿を過ぎてから発奮し、筆を起こした。」(35.)

私の父親は1930年生まれなので、ほぼ親世代である。
筆者が1953年の大学入学から1981年に転職で離京するまでのほぼ30年、20代から40代の神奈川での疾風怒濤(シュトゥルム・ウント・ドランク)の時代である。

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森村2009『笹の墓標』 [全方位書評]

森村 誠一 2009 『笹の墓標』小学館文庫(初出は『小説宝石』光文社、2000年1~5月号)

「深夜、山の方角の中腹に火が見えた。通常、火を焚く場所ではない。
火が見える夜は、工事現場や飯場に死者が出たときである。労働者たちは、あそこで死体が焼かれているのだと噂し合った。だが、噂の真偽を確かめた者はいない。労働者たちは、自分がいつ、あの火の燃料にされるのかとおののいた。
宿舎の格子窓が白むころ、労働者は叩き起こされる。「起きろ。働け」棒頭や取締人と呼ばれる班長が、六角棒を手に容赦なく労働者を叩き起こす。中にはせんべい蒲団をまくられ、六角棒で叩かれても動かない者がいる。ほとんど虫の息になっていて、動きたくとも動けないのである。時には、夜のうちに死んでいる者もいた。
土工夫(労働者)たちからタコ部屋と呼ばれている宿舎は粗末な仮小屋で、逃亡を防ぐために窓には鉄格子がはめられ、夜間出入口には閂がかかる。板張りの床には筵が敷かれただけで、冬は容赦なく吹き込む隙間風が筵を吹き上げた。タコ(強制)労働者と強制連行された朝鮮人労働者の宿舎は分けられているが、実態はほとんど同じである。

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白川2019「セリエーション」 [論文時評]

白川 綾 2019 「セリエーション -時間・空間・系統-」『物質文化』第99号:1-27.

「まず、セリエーションの研究史に触れながら、その概要を説明する。次に、セリエーションの原理原則について、時間・空間・系統の側面から検討する。最後に、考古学的手続きがセリエーションの原理・原則に則る限り課せられる制約と、コンテクストに依存する点を指摘する。」(1.)

セリエーションという考古学的な手法について、初めて正面から本格的に取り組んだ労作である。
セリエーションについては、以前にも思うところを少し記したことがあった【2017-09-23】。
今回の論考を目にして、少しはそうしたモヤモヤ感が晴れるかと期待しながら読んだのだが…
結論は、相変わらずモヤモヤのままである。

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市川2019『アイヌの法的地位と国の不正義』 [全方位書評]

市川 守弘 2019 『アイヌの法的地位と国の不正義 -遺骨返還問題と<アメリカインディアン法>から考える<アイヌ先住権>-』寿郎社

「このような経過を経て私は、アイヌの歴史に沿って、<アメリカインディアン法>の視点から、その権利や権限をまとめてみたいと思うようになった。そしてその後さらに”まとめなければならない”と思うようになった。きっかけはアイヌ遺骨の返還問題であった。序章で述べるように、アイヌ遺骨問題では、誰に遺骨の返還を求める権利・権限があるのかが一番の争点となり、遺骨を保管する大学側は祭祀承継者が唯一の遺骨の権利者であると主張した。大学側のその主張は民法や最高裁の考え方そのものであった。その民法や最高裁の考え方をおそらく法学者や弁護士のほとんどが支持するはずである。
しかし私は、アイヌ遺骨返還問題では、そのような日本の法のあり方を超え、誰でもが納得できるアイヌの法理論・法体系を明らかにしたうえで、<アイヌコタン>という集団の”遺骨管理権”を理論化しなければアイヌ遺骨はアイヌの元に帰ってこないと考えた。そしてこの裁判を契機に、アイヌコタンという集団の権限を中心とした<アイヌの法的地位>をまとめる決意をした。それはアイヌについての法理論と法体系をまとめることを意味するが、本書はいわばその端緒であり、問題提起となるものである。」(3.)

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7・27講演学習会「返還考古学という視座から」 [研究集会]

7・27講演学習会「返還考古学という視座から」(五十嵐 彰)

日時:2019年 7月 27日(土)13時半~17時
場所:豊島区南大塚地域文化創造館 2階 第2会議室(豊島区南大塚2-36-1)
共催:ピリカ全国実関東グループ・東大のアイヌ民族遺骨を返還させる会

「安倍政権は、2020年4月24日の白老「民族共生象徴空間」・「慰霊・研究施設」開設をもって遺骨返還運動を封じ込め、「アイヌ政策」を完了しようとしています。アイヌ民族の権利が何ひとつ明記されていない「アイヌ新法」(4月19日成立)も、様々な条件をつけた文科省発表の「遺骨の地域返還ガイドライン」(4月26日発表)も、アイヌ民族の要求に真に答えたものではありません。
私たちはこの間、東大が略奪したアイヌ民族遺骨のコタン(郷里)への返還を要求して、東大に対する申し入れ、集会・デモ、学習会に取り組んできました。今回は、日本の考古学研究の実態・問題点、特に遺骨返還についての問題点を学習して、今後の遺骨返還運動に活かしていきたいと思います。」(案内チラシより)

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竹岡2019『考古学基礎論』 [全方位書評]

竹岡 俊樹 2019 『考古学基礎論 -資料の見方・捉え方-』雄山閣

冒頭「認知の誤謬」(7-16.)として、「考古学ではない「石器研究」」の事例が挙げられている。
A 人面石器、B 芹沢 長介の珪岩製石器、C 理論考古学(安斎 正人の「素刃石器」、佐藤 宏之の「台形様石器」)、加生沢遺跡、多摩蘭坂遺跡第8地点第1文化層の「台形様石器」、小鹿坂。

「たとえば、茂呂系文化は、南関東地方では、第Ⅸ層、第Ⅶ層、第Ⅳ中~上層に見られる。このことは同じ文化が南関東地方で何度も生まれたのでなければ、他地域で存続していた文化が何度か南関東地方を訪れたということを示している。そして、茂呂系文化は東北地方から九州地方まで広く、かつ長期間にわたって分布しているから(第14図)、茂呂系文化が他地域から何度か南関東地方を訪れたということになる。」(42.)

現在、こうした見解を受け入れている旧石器研究者はどれほどいるだろうか?
そもそも「他地域で存続していた文化」とは、どの地域の、どのような文化なのだろうか?

あるいは以下のような文章について。

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戸塚2019「歴史認識と日韓の「和解」への道(その7)」 [論文時評]

戸塚 悦朗 2019 「歴史認識と日韓の「和解」への道(その7) -迷路を抜け出す鍵-」『龍谷法学』第51巻 第4号:409-448.

「1905年条約が無効であれば、それを前提として締結されたことになっている1910年の韓国併合条約は砂上の楼閣と評価せざるを得なくなる。そうすると、「韓国併合」が「不法だった」との結論を導くことになる。日本による植民地支配を正当化したいと考える人々にとっては、是が非でも封印しておきたい法律問題だったのである。」(421.)

衝撃的な内容である。
1965年の日韓条約締結の際に「もはや無効である」との文言をどのように解釈するかで日韓の間で解釈が分かれて問題となったが、1905年条約の「最初から無効である」という韓国側の主張に国際法的な裏付けが得られたわけである。

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五十嵐2019c「旧石器研究における接合の方法論的意義 -「砂川モデル」の教訓-」 [拙文自評]

五十嵐 2019c 「旧石器研究における接合の方法論的意義 -「砂川モデル」の教訓-」『日本旧石器学会 第17回研究発表 シンポジウム予稿集 旧石器研究の理論と方法論の新展開』:62-65.

シンポジウム当日、会場に着席して渡された予稿集を開いてまず驚いたのは、事前に校正指示を出しておいた箇所が全く反映されておらず、初校状態のままであったことである。
故に、この場にて以下の訂正をお願いすることとなる。
 62頁・左段・下から12行目:…として提示いるのならば… → …として提示されているのならば…
 63頁・左段・上から7行目:(剥片・加工石器」 → (剥片・加工石器
そのほかにも何箇所か指示していたのだが、レトリカルな部分なので、省略する。
しかし、こちらとしては編集担当者の指示に従って校正を提出した時点で、当然修正されているものと信じ込んでいるのだから、そして再校がないのならば、なおさら編集担当者は修正箇所について最低限確認する責務があるのではないか? 閑話休題

「日本で旧石器を研究する場合、方法論に関心がある人にとって「砂川」という言葉には特別な意味がある。だから「砂川」と直接関わる「個体別資料分析法」あるいは「砂川3類型区分」に根本的な欠陥があるとしたら、事は重大である。」(62.)

 1.はじめに
 2.石器製作工程は、常に前半と後半に区分されるのか?
 3.一つの原石から産み出される石核は、常に一つなのか?
 4.「砂川モデル」では、石器製作の実態を説明できないのではないか?
 5.石核を残滓として、石核があれば製作行為の痕跡と言えるのか?
 6.石器製作の工程連鎖は、製作廃棄の連鎖だけなのか?
 7.石器資料の製作と搬入を区別するには、どうしたらいいのか?

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日本旧石器学会 第17回大会 シンポジウム「旧石器研究の理論と方法論の新展開」 [研究集会]

日本旧石器学会 第17回大会 シンポジウム「旧石器研究の理論と方法論の新展開」

日時:2019年6月30日(日)9:00~15:30
場所:大正大学 巣鴨キャンパス 5号館 5階 551号室(豊島区西巣鴨)
主催:日本旧石器学会

「30日(日)に開催するシンポジウムのテーマは、「旧石器研究の理論と方法論の新展開」です。当学会がこのテーマをとりあげたシンポジウムを行うのは初めてです。講演者の皆様からは、考古学研究において理論と方法論がどのような役割をもち、どのような枠組みや視点を提供することができるのかを、理論的研究の動向や旧石器時代を中心とする実践的研究を通じて提示していただきます。続くパネルディスカッションでは、活発な議論が期待されます。」(主催者趣旨説明より)

1.考古資料から歴史構築へ(安斎 正人)
2.刃部磨製石斧の起源 -伝播か収斂進化か?-(鈴木 美保)
3.旧石器研究における接合の方法論的意義 -「砂川モデル」の教訓-(五十嵐 彰)
4.旧石器研究をめぐる理論動向の比較 -韓国と日本-(洪 恵媛)
5.ヨーロッパ旧石器時代洞窟壁画の解釈(五十嵐 ジャンヌ)
6.Practice without theory is blind (and theory without practice is empty)(中尾 央)
7.ポストプロセスからみた旧石器時代研究への提言(溝口 孝司)

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五十嵐2019b「考古学における解釈のあり方について」 [拙文自評]

五十嵐 2019b 「考古学における解釈のあり方について -緑川東を読み解くために-」『考古学ジャーナル』第728号、特集 縄文人の心性と世界観:5-8.

初『ジャーナル』である。編集部にお願いして、何とか恥かしい写真の掲載だけは回避させてもらった。
名前のローマ字表記については、文科省の通達を添えて編集部に変更を依頼したのだが、受け入れてもらえなかった。早急な検討を望む。

「今回は緑川東の大形石棒を事例として、その解釈のあり方について時間論・部材論・ジェンダー論という3つの観点から確認する。」(5.)

2016年から引きずっている「緑川東問題」に関する2019年時点での総括である。
以前より緑川東問題について構想していた時間論・部材論・ジェンダー論を示したベン図を提示することができただけで満足である。

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世界史の中の文化財返還問題を考える [研究集会]

公開シンポジウム 世界史の中の文化財返還問題を考える -2018フランス政府報告書と対馬仏像返還問題を中心に-

日時:2019年6月15日(土)13:00-17:20
場所:大阪経済法科大学 東京麻布台セミナーハウス 2F 大研修室
主催:韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議

「昨年11月にフランス政府が発表したアフリカ旧植民地への文化財返還を打ち出した報告書は、内外に衝撃を与えました。ドイツやオランダでも連動した動きが見られます。他方、東アジアとりわけ日本では、文化財返還問題への理解が乏しく、日韓では深刻な葛藤が続いています。打開の道を識者とともに考えます。」(主催者案内チラシより)

第1部 13:40-14:40 フランス政府報告書について
 2018フランス政府報告書についての考察 -フランスのアフリカ文化財返還政策の意義と課題-(森本 和男)
第2部 14:50-17:00 対馬盗難仏像返還問題について
 ① 対馬から見た仏像盗難問題の歴史的背景(俵 寛司)
 ② 釜山から見た対馬仏像盗難問題(廣瀬 雄一)
 ③ 国際法から見た仏像盗難問題(戸塚 悦郎)
第3部 17:00-17:15 訪朝報告(五十嵐 彰)

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尾田2019「武蔵野台地における後期旧石器時代初頭の編年と行動論」 [論文時評]

尾田 識好 2019 「武蔵野台地における後期旧石器時代初頭の編年と行動論 -武蔵台遺跡の分析を中心に-」『旧石器研究』第15号:107-122.

「本稿では、武蔵台遺跡療育センター地点から出土した資料を分析対象に取り上げ、遺跡形成過程を分析し、その結果を踏まえて立川ロームⅩ層の石器群が層位的・編年的に区分しうることをあらためて確認した。そして、それらの石器技術と居住形態が、武蔵野台地と周辺の資源環境や集団間関係に応じて変化した可能性を指摘した。」(119.)

「区分しうること」の根拠は2点、ファブリック解析とサイズ・ソーティングの検討である。
前者のファブリック解析では「ブロック1・2と周辺」出土の35点の分析試料を出土標高の中央値で「下位試料群」(16点)と「上位試料群」(19点)に区分して、シュミットダイアグラムなどの分析結果が示され「ファブリック解析の結果のみでは、上位と下位の試料群を分離できるかどうか、評価は難しい」(115.)とされた。

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オーウェル(高橋訳)2009『1984年』 [全方位書評]

ジョージ・オーウェル(高橋 和久 訳)2009『1984年 [新訳本]』早川書房6494
George Orwell "NINETEEN EIGHTY-FOUR"

行く前は、どこかにあるだろう仮想社会(ディストピア)を描いた近未来小説の一つぐらいに考えていた。
帰ってからは、ここで描かれた社会が現にすぐ近くに存在していることに深く胸が塞がる思いである。

「彼はいっときも眠らずに聞き耳を立てているテレスクリーンのことを考えた。かれらの監視は昼となく夜となく続いているが、取り乱すことなく冷静さを忘れずにいれば、出し抜くことができるだろう。その抜け目のない賢さをもってしてもなお、かれらは他人の頭のなかを覗きこむ術を見つけるには至っていない。実際に、かれらの手に落ちてしまったら、そうとは言い切れないのかもしれない。愛情省の内部で何が起きているのか、誰も知らないのだ。」(257.)

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御堂島・堤2019「石器痕跡分析の有効性」 [論文時評]

御堂島 正・堤 隆 2019 「石器痕跡分析の有効性 -ブラインドテストによる検証-」『旧石器研究』第15号:69-90.

「ブラインドテストは、既知の試料に対してどの程度正しく推定できるかという分析能力を評価するものであるが、同時に問題点を明らかにし、方法的改善を図るための強力な手段となるものであるとされる(Evans 2014)。実験痕跡研究の枠組みを示した五十嵐(2001)もブラインドテストの重要性を指摘している。一方でその必要性を認めない見解もある。大場(2015, 2016)は、ブラインドテストで「問題になるのは正答率であり、方法は検証されない」(大場2015:112頁)とし、その理由として、ブラインドテストには不正が行われたのではないかという疑念が生じるため、その検証が必要になり、さらにその検証にも疑念が生じる、というように疑念と検証が果てしなく続くことを挙げている(大場2016:註3)。研究不正は倫理の問題であり、どのような研究にも起こり得るものであって、ブラインドテストに固有のものではない。」(70.)

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小泉1986『朝鮮古代遺跡の遍歴』 [全方位書評]

小泉 顕夫 1986 『朝鮮古代遺跡の遍歴 -発掘調査三十年の回想-』六興出版

「大正十一年私が朝鮮総督府博物館に就職が決まった時、浜田耕作先生は、朝鮮の博物館や古跡調査に当るに際し、いつ、いかなることで朝鮮が日本の手を離れることになっても、学者として、日本人として恥しくないように心掛けねばならないとさとされた。まさにそうした事態が、こんなに早くやって来ようとは、当時先生は予測されなかっただろうが、私は最後の日まで先生の教えを守り、朝鮮の文化財を護り続けたつもりでいる。これは私だけではなく藤田亮策氏を始め、すべての同僚も同じで、有光教一氏のごときは、私同様にすべての人が引き揚げてもなお一年近くも朝鮮に踏み止まり、発掘調査の指導まで済ませて引き揚げたのである。
丸裸で引き揚げて来た私は、幸いに家屋敷や多少の土地もあり、生活に困ることはなかったが、書物や資料を無くしてしまった身では、木から落ちた猿同然で、田舎にある土地を開いて農場でも造ろうと決意した時、今さら百姓の真似事でもあるまいと、古い友人の斡旋と黒田源治館長の奔走で、奈良国立博物館に私のために普及課を新設し、課長として迎え入れてくれ、再び研究生活に戻ることが出来た。それから三十五年が過ぎ、今では崇神陵の傍らで余生を送っている。」(あとがき:385.)

日本人考古学者が90歳近くになって植民地朝鮮における経験をまとめた回想録である。

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梅原・藤田編著 1946-1966『朝鮮古文化綜鑑』 [全方位書評]

梅原 末治・藤田 亮策 編著 1946-1966『朝鮮古文化綜鑑』第1巻~第4巻、養徳社

「東亜の考古學乃至古文化の研究の上に大きな寄與をなした朝鮮半島に於ける古代遺物遺蹟の調査事業に就いては、當初主として事に當られた故関野貞博士の執筆に係る諸論文を首として、朝鮮総督府から年々刊行の調査報告や特別報告其他種々の印刷物に依り、その成果が公にせられて、各方面に基本的な資料を提供してゐるのは周知のことである。たゞし前後三十餘年に亙つて行はれた本事業の齎した個々のそれ等に就いての権威ある總括的な刊行物に至つては、前半に於ける『朝鮮古蹟図譜』を外にして、なほ見る可きものがないばかりでなく、調査報告の類に至つても諸種の特殊事情に加へるに、時局の影響などにも禍されて、後半に入つては刊行されたものがまことに寥々としてゐて、為に近年續出した重要な遺物遺蹟の如き、一部関係者を除いて殆んど學界に知られてゐないと云ふのが眞の實状である。これは文物の性質の上から観て遺憾至極なことであつて吾々の様に二十餘年来調査に関與した者にとつては、省みてそれについての責を感ぜざるを得ないものがある。」(第1巻:1.)

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五十嵐2019a「旧石器接合個体2例」 [拙文自評]

五十嵐 2019a 「旧石器接合個体2例 -練馬区比丘尼橋遺跡C地点-」『研究論集』第33号、東京都埋蔵文化財センター:83-90.

現在整理作業中の練馬区比丘尼橋遺跡C地点の接合個体の一部を紹介した7頁ほどの「資料紹介」である。
2019年3月の時点で365個体の接合資料が得られているが、その中から注目すべき2例を紹介した。

1つ目は、Ⅳ層から出土した斧形石器に関連する接合個体である。斧形石器と言えば、前半期(Ⅹ層からⅨ層、せいぜいⅦ層)と相場が決まっているのに、これは後半期のⅣ層、それも平坦な裏面に接合する小形調整剥片が3枚、更に表面に残る礫面を除去しようと企図した裏面からの剥離によって意図しない末端肥厚剥片(ウートラパッセ)が生じて、器体の大半を損壊し破棄されたという「レア」ものである。
「アチャー」という旧石器人の悲嘆が、ビシビシと伝わってくる資料である。
実は本稿の挿図のために苦労して接合状態の実測図を仕上げた後に、表面に更に1枚調整剥片が接合することが判明したが、既に間に合わず。
「つきました!!」と嬉しそうに報告してくれる作業員の方に対して、実測・トレースをやり直さなければという思いが頭を駆け巡りつつ、「よかった!!」と心中とは相反する笑みを浮かべつつ応対する複雑な心境。

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タグ:旧石器 接合
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松島・木村編著2019『大学による盗骨』 [全方位書評]

松島 泰勝・木村 朗 編著 2019 『大学による盗骨 -研究利用され続ける琉球人・アイヌ遺骨-』耕文社

序言(3-8)は、一般財団法人 東アジア共同体研究所理事長という肩書の鳩山 友紀夫(由紀夫)である。

「私は2009年の所信表明演説において、「すべての人々が偏見から解放され、分け隔てなく参加できる社会、先住民族であるアイヌの方々の歴史や文化を尊重するなど、多文化が共生し、誰もが尊厳を持って、生き生きと暮らせる社会を実現することが、私の進める友愛政治の目標となります」と述べました。私は今、この演説には二点が欠けていたことを実感しています。一つはアイヌ民族だけでなく、琉球人も先住民族として加えていなければならなかったこと、二つめは尊厳を持って生き生きと暮らせる社会に留まらず、死してもなお尊厳を持って遇される社会を実現しなければならないことです。」(6.)

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加藤2018「先住民族の遺骨返還」 [論文時評]

加藤 博文 2018 「先住民族の遺骨返還 -先住民考古学としての海外の取り組み-」『先住民考古学シリーズ』第1集、北海道大学アイヌ・先住民研究センター先住民考古学研究室:1-71.

「本小論は、先住民族の文化遺産の返還の世界的な動向について、各国における事例を参照しながら、具体的な取組みの過程において確認された先住民族文化遺産をめぐる各国の法制度との関係性、返還過程において明らかとなった課題点を整理することを目指したものである。数世紀にわたり収集されてきた先住民族の文化遺産には、日用品から儀礼用具、そして先住民族の遺骨までが含まれている。本小論では、その中でも、とりわけ先住民族の祖先の遺骨や、それに関わる副葬品の返還を巡る取り組みと課題に焦点を当てた。その理由としては、21世紀に入り日本においても先住民族アイヌ自身による祖先の遺骨返還を求める動きが改めて訴訟も含めて顕在化してきていることがある。また過去の日本の大学研究機関によって研究目的で収集され、保管されてきたアイヌ民族の祖先の遺骨の今後の取り扱いについても早急に検討する必要が生じているためである。そしてなによりも、発掘調査において墓や遺骨の発掘に関わる考古学者や、出土人骨の分析に関わる生物考古学者(自然人類学者)にとって、国際的な動向を理解し、問題の所在と研究者の果たすべき責任を明確に自覚し、これからの日本における取り組みを真摯に検討することが急務と考えるためである。」(前言)

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考闘委1971『全国通信』第3号 [全方位書評]

全国考古学闘争委員会連合1971『全国通信』関東考古学学生連絡協議会編集局

「5・15関考協討論集会報告」(5・15討論集会実行委員会):1-4.

「5・15関考協討論集会は、5月3~4~5日にわたって展開された日本考古学協会解体闘争の地平をふまえて現在的な闘争を展望すべく設定されたものである。討論は文化財問題を含めた協会解体闘争の再度の位置付の確認から開始された。
その発足時より権力に保証された半封建的機構として無媒介的に存立していた日本考古学協会は、69年10月25日協会闘争・文化財破壊等を契機、媒介とし『研究者意識』を唯一その基盤においたブルジョワ利害関係から少数ボス支配=中央集権の解体、研究者の地域的分散化といった一定程度の流動化をみせている。
それは、日共=文全協一派を頂点とする部分による「社会的責任の遂行」といった欺瞞的近代化路線(改革原案の提出-採択)の推進であり一方、右翼反動による積年の「発掘公団構想」の実体化である。その内実は、日共=文全協の文化財保存運動を票田化という日共集約に向けた国民運動路線の一環として位置付け、純学問的研究を保証する考古学界のヘゲモニー掌握とを二重写しにした所の日共文化運動のブルジョワ改良主義の一環としてある飛鳥保存・風土記の丘構想・国立民族歴史博物館構想のまえに運動実体として包括されてしまっている。右翼反動の権力との同化はいうまでもない。しかしこの中にあって動揺をみせている地方研究者・研究団体の動きを見落とすことはできない。

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