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田村2015「まれびとの訪い」 [論文時評]

田村 隆 2015 「まれびとの訪い -日本列島石刃石器群の成立-」『考古学研究』61-4:24-44.

「本論では、日本列島中央部における石刃石器群の成立過程を再検討し、その文化史的、進化論的な意味を提示する。あわせて、新たな時期区分説を示し、世界的なコンテクストへの位置づけを展望する。」(24.)

論題がすごい。
「おとない」が躊躇なく読める人がどれだけいるだろうか。ちなみに私のパソコンの変換機能では「おとない」と入力しても候補としてすら表示されない。
英文論題も"Neighbors, not auslanders"で、auslanderはドイツ語である。この論題自体も、Skrdra&Rychtarikova2012が収録されているPastoors&Peresani ed.2012の書名からのモジリなのだろうか。

引用・参考文献がすごい。
全73本のうち(ダブリであるMaillo-Fernandez et al 2011を1本としてカウント)、「英語文献」が50本(68%、但し仏語文献3本を含む)、「中国語文献」1本、「日本語文献」が22本(30%)である。
英語文献も定期刊行物では、American AnthropologistやAmrican Antiquity、Journal of Anthropological ArchaeologyやJournal of Archaeological Scienceといった所謂国際的な雑誌だけでなく、Australian ArchaeologyやChinese Science Bulletinといった地域英文誌まで網羅されている。
ただ並べればいいというものではないが、その多くがここ10年ほどの最新の論文である。本来こうした姿勢が、学問研究としてのあるべき姿であろう。これは何も旧石器時代を主題としている論文だから、そうなのではなく、たとえ弥生時代や古墳時代を主題とした論文でもそうあるべきではないか。自戒とする。

ただし、こうした論文を査読する方も大変である。
文献として挙げられている全てとは言わないまでも、その多くを読んでいるか、あるいは大まかな内容を理解していないと、適切な査読コメントを述べることすらできないだろう。しかし現在の国内で、こうした要求に答えられる査読者がどれだけいるだろうか。依頼された差読者の困惑を思うばかりである。論文を受理した研究会としても、「まれびとの訪い」にさぞかし困惑したことだろう。

多くの新知見が、盛られている。
「石刃」の英語訳は、”blade”ではなく”laminar”である。
「新たな時期区分」として、英文要旨の末尾に「Table.1」として表が掲載されている。
しかし「英文要旨」は、本文の要約を英文で記すものである。
本文に掲載されていない表が、「英文要旨」にだけ掲載されるというのはどうだろうか?

「プランジング・タイプの石刃(オトゥールパッサージュ)は剥離事故なのではなく、作業面の湾曲性を回復するための計画的な制御技法と評価されなければならない。」(25.)
自らの経験から「事故」とばかり思い込んでいたので、これは是非「技術学派」の方々に検証作業をしていただきたい課題である。
実態は、白か黒かではない、すなわちあるものは意図的な剥離であり、あるものは事故だったのではないか?

「石刃モードB」として「厚みのある石刃を素材とする小石刃生産体系」(26.)が紹介されている。石刃を素材とする剥片生産と聞いて、まず想起するのが「米ヶ森技法」である。
私自身の経験としては、武蔵野台地の事例として珪質頁岩の大形剥片を素材として、分割したそれぞれの小口面から小石刃を剥離した「国分寺市武蔵国分寺跡遺跡北方地区第9遺物群(Ⅸ層上部)第10石器集中部出土資料(9-12-1-2)・(9-12-1-4)」(東京都埋蔵文化財センター調査報告第136集(2003):第1分冊:652-657.)が思い浮かぶ。
こうした「小口型」と同時に、最近調査した北区桐ケ丘遺跡の4群(Ⅶ~Ⅸ層)では、「端部型」とでも言うべき多様な剥片石核の接合資料(例えば東京都埋蔵文化財センター調査報告第296集(2015) <4-6-5>:105.、<4-6-13>:140.など)が記憶に残っている。
それぞれ「世界的なコンテクストへの位置づけ」が見通せて、非常に興味深い。

論自体の内容に触れえず、表面的で瑣末な指摘ばかりとなってしまった。
著者の四半世紀にわたる一連の作業(1989「二項的モードの推移と巡回」、1998「移行の論理」、2001「重層的二項性と交差変換」、2011『旧石器社会と日本民俗の基層』など)を通じて本論に至る形成過程をトレースするという作業が残されている。


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